先日のニュースで太陽光などの再生可能エネルギー発電施設を巡り、地元自治体が発電事業者に対し、新たな税金(法定外目的税)を課す試みを始めたり、設置に制限をかけたりする動きが広がっているとの報道がありました。
こうした動きは、かなり以前から取り上げられておりました。背景には施設急増に伴う土砂災害の危険性の高まりや、環境・観光資源への悪影響による住民の不安の広がりがあり、この様な事態に対し、国は漸くトラブルの未然防止に向けたルール作りに着手しましたが、縦割り行政の弊害で、余りにも遅いと言わざるを得ません。
具体的には、2020年4月に大規模な太陽光発電施設を設置する事業者に対し、国の環境アセスメント(影響評価)を義務付け、更に本年10月7日の国の有識者会議が ①開発許認可手続きの厳格化 ②説明会など地域への事前周知の義務化 ③災害リスクが高い施設への立ち入り検査の強化などを柱としてまとめた提言に沿って、現行制度の改正を進める方針が示されました。
平地の少ない日本では、大規模な太陽光などの再生可能エネルギー施設の多くは、傾斜地に森林を伐採して設けられるケースが多く、急増するトラブルに地元自治体は困惑しておりました。
脱炭素が世界の潮流となる中で、日本はこれからも再生可能エネルギーの普及に力を入れていかねばならず、再エネ先進国の欧州の国々や中国からも遅れをとっている状況においては、これまで以上に再エネ先進国との協力関係を築き、日本への投資を高められるよう推進する環境を整えていくことが必要になっております。その為にも、国の責任のもと、地元自治体にご理解を頂いた上で普及拡大に取り組んでいくことが大切です。是非この度の法改正が、こうした課題解決に向けた実効性のあるものとなることを願います。
さて、これまで再生可能エネルギーは福島第一原子力発電所事故後の原子力エネルギーに代わるクリーン電力として期待され、国連気候変動枠組条約(COP)締約国会議における温室効果ガス排出量削減目標に向け、普及拡大に努めてきました。そしてその取り組みは、第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)におけるパリ協定により加速し、日本は2050年に温室効果ガス排出量実質ゼロ(2050年カーボンニュートラル)を国際公約として掲げました。そしてこの方針は2021年10月の「第6次エネルギー基本計画」の中で、2019年度16%であった再生可能エネルギーの割合を2050年に38%に高め、原子力エネルギーも22%まで利用する事が示されました。現在原子力エネルギーは6%しか利用されておらず、不足分は火力発電施設の利用により維持されております。しかも再生可能エネルギーは可変動電源と言われ、季節や時間帯で発電量が変動する電源である為、電力供給量の調整をしなくてはなりません。その結果、「2030年カーボンニュートラル」を宣言したものの、火力発電は可変調整手段として残さざるを得ず、現在では原子力が大幅減少している状況において、総発電量の75%、2030年度目標でも41%と最大の電源とされております。そうした状況において、今後火力発電施設からのCO2排出削減は避けて通れない課題であり、旧式の火力発電施設からの「ゼロ・エミッション火力プラント(発電所)」への移行が不可欠と言われております。エネルギー問題とカーボンニュートラルの実現は密接な関係があり、バランスのとれたエネルギーの移行(エネルギートランジション)を進めていかなくてはなりません。
本年5月に米国・ダラスで開催された電力業界向け国際展示会「POWER GEN International 2022」において、日本は「ゼロ・エミッション火力プラント」を世界に発信しました。燃料アンモニアを含む日本の新たな提案は、火力発電依存の高い日本が2050年までにCO2排出ゼロを実現する具体的な道筋として、一定の評価を得たと報道されておりました。特に、アジアなど開発途上国でも多く使用されている火力発電のゼロ・エミッション化は、アジアの持続的な経済成長とカーボンニュートラルの同時達成を支援することとなり、多くの期待が寄せられています。是非、アジアのゼロ・エミッション化に向け、日本における技術開発の成果やノウハウをアジア全体で活用し、世界のカーボンニュートラルを進めてほしいと期待します。
ところで、現在ロシアによるウクライナ侵略によるエネルギー価格の高騰の影響で、国内電力事業者の決算は軒並み赤字に陥っており、旧式の火力発電施設の維持が困難になってきております。バランスのとれたエネルギートランジションを進めるためにも、エネルギー事業の担い手であります電力事業者を後押ししていくことも重要な取り組みです。
実際に今年3月、東京と東北エリアで初めて「需給逼迫警報」が発令され、夏にも節電が呼びかけられ、今年の冬においては、「電力危機」が危惧されております。
この理由として、2つのことが指摘されております。1つは、原子力発電所の再稼働の遅れによる発電量の不足です。原子力規制委員会は16原発27基の審査申請を受け、新基準に照らし、これまで10原発17基の適合を発表しましたが、最終的な手続きを終え、地元同意を得て再稼働できたものは、6原発10基にとどまっております。今日の危機を乗り越えていくためにも、国の責任のもと、一日も早く審査が終了している残り7基の再稼働を進めるべきです。
2つ目は、2016年に電力市場の完全自由化により利用率が低くコストが高い旧式火力発電を少しずつ休廃止してきたことで、全体の電力供給量が減ってしまったことです。こうしたことにより、天候などによって一時的に需要が増えた場合、可変性調整が足りず、簡単に電力逼迫が起こってしまう状況になったことです。
特に再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が導入されたことにより、電力会社が太陽光発電設備からの発電量を自動的に買い上げなければならず、普段は使用されないバックアップとしての旧式火力発電設備の維持が困難になり、更に休廃止に拍車がかかる悪循環に陥ってしまいました。
特に冬場は電力需要のピークが日没後になるため、火力発電の発電量が休廃止により減少している状況においては、電力逼迫になる可能性が高くなります。今後も現行の制度の構造上の問題として、可変動電源を今の状況のまま増やすと、電力供給の不安定化を引き起こすことになります。
そうした中、現在東京都の小池知事は、12月の第4回定例議会において、「東京版カーボンニュートラル」を進めるため「新築住宅に太陽光パネルの設置を義務付ける条例」を制定しようと取り組んでおります。実際に実施されるまでに2年間の猶予がありますが、エネルギー価格が高騰し、電力事業者の経営が厳しい状況において、条例により義務化されることにより、益々電力の安定供給に不安を抱えることになり、その他にも、施主や施工業者、更には環境にも大きな影響を与え、十分な説明と対応が求められます。
更に、太陽光パネルの廃棄処分等における体制が整備されておらず、将来的に混乱が生じる可能性が高いと指摘されております。太陽光パネルには、鉛やセレンなどの有害物質が多く含まれているものが多く、適切に処分されなければ「土壌汚染」を引き起こしかねません。現在も自然災害によって損壊した太陽光パネルの廃棄は、国による廃棄物処分等に関する実態調査によると、多くの処理事業者が有害物質の含有可能性を認識しておらず、破砕し、遮水設備の無い処分場に埋め立てていたケースが多々報告されております。
また倒産事業者が保有する太陽光パネルの不法投棄も起こっております。太陽光パネルは建物から取り外しても、日光が当たる限り発電を続けますので、パネルを表に向けたまま廃棄した場合、「感電の危険」があります。
現在、太陽光パネルの耐用年数が20年から30年とされている中で、2012年の「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)」創設から計算すると、約10年後には耐用年数を迎えた初期型パネルの大量廃棄が始まります。計算では、ピークを2035年から2037年とし、年間17万から28万トンが廃棄されると予測され、太陽光パネルのリサイクルを推進する強力な支援が必要となります。特に現状では、太陽光パネルのリユース・リサイクルを実施する事業者がほとんど無い状況であり、事業者と協力して体制を整えていかねばなりません。
また、現在使用されている太陽光パネルの90%は中国製品が占めており、将来的に安定した供給の見通しが不安視されております。
東京都においては、関係するステークホルダーのすべての方々の声をしっかりと受け止め、きめ細かい対応を心掛けるとともに、電力供給の不安定化を引き起こすことのないよう国の取り組みとも綿密に連携し、首都東京のカーボンニュートラルを進めていただきたいと思います。また、火力発電施設を多く抱える東京が、「ゼロ・エミッション、火力プラント」の導入、支援を積極的に進めていただきたいと思います。
さて、今後社会のデジタル化が進む中で、情報通信関連の消費電力は、2030年には現在の30倍以上に、2050年には約4000倍以上に激増するという予測が、国立研究開発法人、科学技術振興機構・低炭素社会戦略センターより出されております。
これは情報通信関連に限定した消費電力予測ですので、社会全体の消費電力は更に多めに見積もるべきで、国の重点戦略として「省電力化研究開発」を迅速に進める必要性が指摘されております。
国内の「ネットワーク系」の消費電力についても2030年には約4倍、2050年には約522倍と予測されております。これはトラフィックの年率27%の増大を仮定し、現在の最新市販品レベルを前提とした推定消費電力としております。
こうした裾野が広い情報通信産業における「省電力化研究開発の促進」とともに「安定的な電力供給体制の構築」を実行しなければ、生活や産業が成り立たなくなってくる時が迫っていると、高市早苗国家安全保障担当大臣も指摘しておられます。そしてその為に、地球温暖化対策と日本の経済基盤整備を両立させるべく、再生可能エネルギーの更なる導入に加えて、原子力の平和利用の必要性を説かれています。
特に、高圧・特別高圧で安定的な電力供給が求められる産業用に、2036年に向けた対策として、2029年の運転開始に向けて、米国や英国で開発が進められている「SMR」(小型モジュール原子炉)を活用し、工業団地やデータセンター立地地域などに「地下立地」することが現実的であると述べられております。そしてその先には、遅くとも2035年までに実用化されると考えられる「核融合炉」の実用化にも触れられております。
「核融合炉」は、仮に電力供給が止まった場合も反応が自動停止し、電源喪失によるトラブルが無く、寿命が短い廃棄物が生じるだけで、高レベル放射性廃棄物も出ないと言われております。「核融合炉」は、水素の2つの同位体である重水素とトリチウムが必要なだけで、CO2の排出も無く、排出されるのはヘリウムのみと言われております。しかも燃料1gで石油8トン分に相当する高効率エネルギーとして注目されており、現在、米英5社がビック5と呼ばれ開発をしており、日本では、2019年10月に設立した京都大学発の京都フュージョニアリング(株)がビジネス目的の核融合炉の開発までを目指している唯一の企業と言われております。是非とも遅れを取り戻し、ビジネス目的の実用炉の開発に向け、取り組んでいただきたいと思います。
パリ協定により加速した世界的な脱炭素化の潮流は、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素を投資判断に取り込む「ESG投資」の増加を促し、金融の脱炭素化の進展に加え、民間事業者でも脱炭素の取り組みが増えております。2021年4月現在で、125ヵ国と1地域が2050年までにカーボンニュートラルを実現する宣言をしました。各国ともグリーン分野の研究開発や先端技術導入支援などを積極的に行っており、脱炭素分野への政策的支援は重要な国家戦略になっております。
特に、一次エネルギー供給の多くを輸入に頼っている日本の現状において、安定した資源確保のための施策、再生可能エネルギーの主力電力化に向けた施策、国内エネルギー供給網強靭化などは、国家存亡にかかわる重大な問題として、世界に遅れをとるわけにはいきません。是非とも、各省に分散しているエネルギー関連の施策を一元化して、国を挙げて進めていただきたいと思います。